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栃木県足利市『迫間自然観察公園』の設計 [ ・公共施設]

12年程前と少々古い話で恐縮ですが、建設コンサル時代に設計を担当した現場の状況が
気になり、ネットを検索したところ幾つかのサイトで紹介されていました。
自分が担当した現場はできるだけ見に行くようにしているのですが、完成を待たずして浜松に
Uターンしたため、なかなか見に行けていない物件も多々あります。

 

今回の迫間(はさま)自然観察公園は、僕が提案した原設計にかなり忠実にできていて、
とても嬉しくなったので記事にしちゃいました♪
公園MAP.jpg
栃木県足利市にある迫間(はさま)湿地を保護するため、自然観察ができるような公園にするため、
基本設計の委託を足利市教育委員会から受託したのが最初だったと思います。

 

この公園の計画では、湿地と言う非常に繊細な環境を人が利用できるように整備することが
求められました。
しかし、社内でも周囲でも湿地公園の設計経験者がいなかったため、工事の手段を含め、
判らないことだらけでとても苦労した物件だったので、後の状況が気になっていました。

 

細かいことをあげればキリがないのですが、土木屋さんが作るような公園にしたくなかったし、
どう考えてもイメージにあるのは尾瀬の景観でした。
だけど、尾瀬の木道なんてどう設計しているのか判らなく、今のようにネットで簡単に調べられる
時代でもなかったため、思案した結果、自腹で尾瀬に見に行くことにしました。

 

 

ところが、時期はGW前で、山には雪が残り尾瀬にはまだ入れない。
第一、尾瀬の行き方も知らなかった。。。

思案していても始まらないため、「とり敢えず行ってみよう!」と考え、小旅行も兼ねて、
一泊二日で独り(当時はまだ、独身でした)尾瀬の清水口と戦場ヶ原に行ったのです。

 

 

やはり行ってみるもの見てみるものですね。
清水口の手前に小さいながらも木道が整備されており、木道の構造がリアルに理解できたのです。
さらに、山小屋のギャラリーには木道工事の写真が飾られており、写真には尾瀬林業と言う社名が
写っていました。
電話帳で電話番号を調べ、木道の写真を撮り、東京に戻った後、尾瀬林業に電話を掛けて
木道整備の担当者を教えてもらい、詳しく教えていただいたことで活路が見出せました。

 

 

尾瀬の(確か)半分は東京電力の所有地で、東京電力から委託を受けて木道整備をしていること。
木道の図面はあるけど簡単なもので、基本的には現場の状況(特に出水)応じて現場で
構造を決めて施工していくこと。
木道に使っている樹種は直径30㎝のカラマツを半割りに挽いたもので、尾瀬の気候だと
10年程度の耐久性があることなどを丁寧に教えていただいた。

 

迫間湿地の公園は、足利市が発注するものでしたが、建設省の補助金(いわゆる国庫補助金)を
受ける事業であるため、会計検査の対象となり根拠のハッキリしない設計はできないのです。

もちろん、市単独の予算(単費)だったら適当でも良いと言うわけではありませんが、
会計検査と言うのは全国民の税金を使っているため非常に厳しい検査であり、不経済に使用
たことがわかると会計検査報告に上げられ、指名停止になったりすると、クライアントへ迷惑を
掛けるだけでなく、自部門だけでなく道路やトンネル、橋梁部門も指名停止になるため
とても神経を使うのです。

それだけに全国的に有名な尾瀬の事例は、これ以上にない根拠となると思った訳です。

 

 

早速、尾瀬の例から木道の実施図面(詳細な図面)を作成し、施工者に仕上がりのイメージが
キチンと伝わるよう原図(トレーシングペーパー)に撮影した写真を貼りこみ、役所の担当者へ説明し
承諾を受けることができました。

通常、こういう公園施設を作る場合、遊具メーカーなどの協力で行なうことが多いのですが、
環境へのインパクトと予算を抑えることを考えると、メーカー製品を使うことは考えられませんでした。

 

そのため、丸太を材料とし、職人さんが現場で加工することでコストを抑えることにしました。

市役所での打合せの帰り、市庁舎内の電話ボックスでタウンページをめくり、
足利市近隣の製材所の電話番号を調べ、数社から直径30㎝のカラマツ材を半割にする見積りを
採り、図面と報告書にまとめ、設計積算図書と共に成果物として納品して業務完了となりました。

土木系の公共事業の場合、設計監理をコンサルが担当することは少なく、役所の技術者が
現場の監理をするのが常であるため、その後の状況がわからなかったのです。

 

 

当時一緒に担当してくれた後輩のM谷さんと言う女性が、時々浜松へ写真を送ってくれたため、
何となくは状況を理解していたのですが、今回の調査でそのときの苦労がほぼ正しかったと確信
できました。
苦しかったけど、思い出深い案件でした。

 

 

さて、、、前置きが長くなりました。

 

下の画像は、法政大学さんの原生生物情報サーバー迫間湿地からお借りしました。
トップの画像と下記の2点。

 

ヤナギの新緑は、息をのむ美しさでした!
353.jpg

340.jpg

見晴台.jpg
見晴台車椅子用木道
夏は背の高さ以上に葦が伸びるため、ところどころに見晴台を設置するよう設計したのですが、
設計通りに作ってくれたようです♪
 画像:椎名様の渡良瀬夕景ブログ!より、画像をお借り致しました。

 

 

思わず笑ったのがコレ!

 

やちぼー.jpg

 

湿地独特の植生である谷地坊主(やちぼうず)をモチーフにしたマスコットキャラなのですが、
実はコレ、後輩のM谷さんと殆どノリで考えたもの。

 

「採用されるわけないよね~!」

 

って言いながら設計報告書に書いたのですが、しっかりと公園の案内板に印刷されていました…。
嬉しいというより自己嫌悪。
説明書きも無い様なので、意味判らないでしょうね。。。

以上、長々と殴り書きのような雑な記事で申し訳なく思います<(_ _)>

 


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denn

調べ切り開きたどりつくくだりが すごく楽しそうです^^
ああ・・尾瀬 行きたいと毎年思うばかりで いまだ未踏の地^^


by denn (2008-08-04 04:46) 

JOHN

やちぼーにナイスです(*^-^)b
かわいいですよ♪
by JOHN (2008-08-04 08:56) 

とりのさとZ

この設計は、すばらしいと思いました。自然とマッチしているし。
いい仕事をされましたね。
by とりのさとZ (2008-08-04 13:07) 

たいせい

 家の場合もそうなのでしょうけれど、大勢の方達が利用する施設がご自身が係わり、当初の意図通りに出来て残っているというのは感慨ひとしおなのでしょうね。
 12年前というとバブルが弾けた頃だと思いますが、当時企画されたもののは今から見ると前時代的なものが多いように思いますが、少しも陳腐化が感じられないのが素晴らしいですね。
by たいせい (2008-08-04 14:11) 

夢空

設計のお仕事、自分の仕事結果がこういう形で残るお仕事って素晴らしいですね☆やちぼー♪いいんじゃないですか(^.^)マスコットキャラでキーホルダーとか・・(^^)
by 夢空 (2008-08-05 10:10) 

micyu

ナイスです。木道は踏み荒らされないことと小動物の行動を妨げない良い方法だと聞きました。でもメンテナンスが大変なんでしょうね(^_^;)
by micyu (2008-08-05 11:11) 

ijimari

☆やちぼーはネーミングまで考えたんですか???
東電で、尾瀬ツアーっていうのがあったりしますねぇ。
きれいなところですね!
by ijimari (2008-08-05 19:29) 

浜松自宅カフェ

【補足】
9年間の建設コンサル経験では、完成した現場が設計者が意図した通り
に完成していることの方が稀でした。
何かしらの理由により、原設計とは違うものになっていることが多かった
だけに、この公園の仕上がりには正直驚きでした!!!
特に、現場の状況に合わせなくてはならない今回のような現場は、
施工業者の技術だけでなく、発注者側のリードが重要になってくるのですが、
コンサルとしての私達の提案をかなり忠実に受け入れて下さったようで、
感謝しています。
(何年か前、台風の増水により木道が破損したようで、議会で問題になって
いたようでしたが、新たに予算を付けて修復をされたようです)


●dennさん
 楽しいと言うより、判らないことばかりで悩み苦しみました。
 それだけに気になっていたわけで、こうしてブログ等で使われている様子を
 知ると苦労が報われますね。

●カフェオランジュさん
 nice、ありがとうございます。

●JOHNさん
 コメントさせていたただいたので覚えておられると思いますが、
 この公園は昨年JOHNさんが訪れた、足利フラワーパークのお隣に
 あるのですよ!

●とりのさとZさん
 辛口のとりのさとさんにそう真正面から評価いただけると、本当に
 嬉しいです。
 過去、結果的に山形のブナ林を伐採することになってしまう設計に携わり、
 強い自責の念に駆られました。
 その時のことが今回、最後まで諦めなかったことにつながったのだと
 思います。

●たいせいさん
 そうなんです!僕が今でも住宅設計のお手伝いをさせていただいている
 のは、こう言う楽しい体験をしてしまったから。
 必要としている人がいて、お役に立てるならと思っている次第です。

 陳腐化しないのは、それが機能に基づくデザインだからだと思います。
 それは僕が作ったものではなく、尾瀬と言う見本があったからでですね。

●夢空さん
 設計の仕事は楽しいです!
 誰にでもできるし、誰にもできないところが。
 『やちぼー』は女性に受けるみたい?(笑)

●micyuさん
 湿地のためには、本当は木道すらないことの方が望ましいのですよね。
 しかし、利用されることで住民の意識が高まり、保全活動につながるなら
 整備することの意味はあるのだと思います。
 尾瀬がそうであるように!

●ijimariさん
 ネーミングを考えると言うほど大袈裟じゃなく、殆どノリでサラサラと
 描いたものなんですよ(笑)
by 浜松自宅カフェ (2008-08-05 21:46) 

ドクトルパンダ

自然との共生、そんな事も考えながら家を作るべきなのでしょうね!?
by ドクトルパンダ (2008-08-07 16:46) 

浜松自宅カフェ

●ドクトルパンダさん
 大人として、次世代のことを考えるべきだと思っています。
 ・・・と言う思想だけでなく、『自然と共生する家は気持ちが良い』と言う
 実感を持っています。
 浜自カフェはそれを具現化したかったのです。
 少なくとも僕は、人工物ばかりで囲まれた空間で死ぬまで暮らすこと
 は考えられないです。
 プラスティックで囲まれた空間しか知らない子供は可愛そうだと
 思います。
 子供と言うのは判るもので、長女が3歳の時、「木の家が良いの!」
 と言っていました。

by 浜松自宅カフェ (2008-08-11 12:23) 

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